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活用事例

科学捜査・鑑識(ALS)

科学捜査(鑑識)では、目では見えづらい証拠を見つけるために、ALSと呼ばれる紫や青、赤の光を照射するライトを使用します。
例えば、血液や体液の検出では、450nmの波長とイエローまたはオレンジ色のフィルターも用い、ローダミン6Gやインダンジオを用いた指紋の検出では500nmの波長とオレンジ色のフィルターを用います。ALSを用いた観察では、このように捜査対象により波長やフィルターを使い分ける必要があり、相応の知識と経験が必要とされます。

ここでは、ALSを用いた科学捜査(鑑識)について、世界最大の法科学組織である『International Association for Identification』のトレーニングパートナーを務めるTRI-TECH FORENSICSのPhil Sanfilippo氏が入門者向けに執筆した文書「Economical Light Sources」を紹介します。

*TRI-TECH FORENSICSおよびPhil Sanfilippo氏の許可のもと、翻訳を行い当サイトへ掲載しています。

Mr. Phil Sanfilippo
Mr. Phil Sanfilippo

Economical Light Sources
Economical Light Sources
Detecting and Collecting Luminescent Evidence Using Forensic LED Lamp Kits

エコノミカルライトソース

科学捜査用ライトを用いた発光する証拠品の採集について

様々な種類の物質が、ガンマ線・X線・光・マイクロ波等の電磁波により励起され、光を発します。それらの物質の中には、犯罪捜査の証拠として有用なものもあります。この記事では、まず物質が発光する仕組みと法科学分野での使用について概要を説明し、次に発光を引き起こすための安価な光源として使用される科学捜査用LEDライトを用いた観察について概略を示します。

ルミネッセンスとは、物質がある種の刺激や励起を受けると発光する性質を表す言葉です。ルミネッセンスにより放出された光は、可視光線である場合もあれば、紫外線や赤外線のような不可視光線である場合もあります。法科学の文脈でルミネッセンスを論じる場合、鑑識官は発光物質に注目します。一般的に発光物質は、励起光源の除去後すぐに発光が消える蛍光体と、光源を取り除いても一定時間発光を続ける燐光体に分類されます。これらの発光物質の違いは、励起源を取り除いた後に発光が継続するか否かとなります。燐光体は光源を取り除いた後も一定時間発光を続けますが、この一定時間は非常に短い時間であったり、長い時間であったりします。ある物質が蛍光体か燐光体か分からない場合、その物質を発光性物質と呼ぶのが最も適切です。

ルミネッセンスによる発光は、原子構造内の電子がエネルギーを与えられ励起状態になることで発生します。法科学の分野において、この種のエネルギーを与えるために使用される装置はALS(Alternate Light Source:代替光源)と呼ばれています。ALSから光エネルギーが照射されると、電子は励起状態になり、原子核の周りの軌道を変化させます。電子は基底状態に戻ると、光の粒子である光子を放出します。通常、放出される光は、その発光の元となった光源よりも低いエネルギーの波長となります。これにより一般的には、紫外線光源によるルミネッセンスは可視光領域で、可視光源によるルミネッセンスは元の可視光よりも波長の長い領域で観測されます。具体的には、紫外線や紫色を当てた発光は黄色に、青色を当てた発光はオレンジ色に、緑色を当てた発光は赤色で観察されることが多く見られます。このようにエネルギーの高い波長帯から低い波長帯にシフトすることをストークス・シフトといいます。19世紀のアイルランドの物理学者、ジョージ・ストークス卿がこの現象を初めて報告したことにちなみ名付けられました。

電磁波は、波長によりガンマ線・X線・光・マイクロ波等に分類されます。光をさらに詳しくみると、紫外線(波長10~400nm)、可視光線(波長400~750nm)、赤外線(波長750nm~1mm)に分けることができます。紫外線、可視光線、赤外線を波長で分類するのと同様に、可視光線も波長によって色が変わります。次の表は、光の色に対する波長帯域を示したものです。

色彩 波長
紫外線 10〜400nm
400〜450nm
450〜490nm
490〜560nm
560〜590nm
590〜630nm
630〜750nm
赤外線 750nm〜1mm

【表1】
実際の色はここに示した6色(紫・青・緑・黄・橙・赤)の境界上にも存在することに留意してください。多くの場合において、発光色は励起色よりも長い波長となります。(上の表において、発光色は励起色よりも下の領域に存在します。)

発光を観察・撮影するためには、2段階のプロセスが必要です。まず、観察したい物質を正しい波長の光で励起する必要があります。次に、発光波長の光のみ観察・撮影できるように透過させ、同時に励起波長の光を遮断(バリア)する必要があります。これは 「バリアフィルタリング」と呼ばれる技術です。特に可視光で励起する場合は、励起光源による反射光が発光よりも強い場合が多いため、バリアフィルタリングにより励起波長の光を遮断する必要があり、適切なバリアフィルターの使用は非常に重要です。不適切なフィルターを使用すると、発光波長だけでなく励起波長も透過させたり、励起波長を透過させ発光波長を透過させなかったり、またはどちらもバリアしてしまい、発光を観察することができなくなります。

ルミネッセンス(発光)を利用し検出される犯罪捜査の証拠品の例としては、下に示す物質が挙げられます。

体液 精液、尿、唾液
骨材 骨、歯
遺留物 毛髪、繊維、発火促進剤(炭化水素類)
指紋 蛍光媒体で処理した場合
薬物 粉体・錠剤

ルミネッセンス(発光)を利用した証拠の可視化には2つのパターンがあり、どちらもコントラストを高めることで証拠とその背景の明暗や色彩の差異を強調します。1つ目は、証拠のみが発光し背景は発光しないパターンです。この場合、証拠はより見やすくなります。2つ目は、証拠ではなく背景の発光を利用するパターンです。鑑識官が血痕を探すときこの方法がよく使われます。血液は光エネルギーを吸収する性質があり、過剰な反射や発光がないためです。
証拠だけでなく背景も共に発光している場合、証拠の視覚化を妨げてしまいます。このような場合、少し色の異なるバリアフィルターを用いて励起波長を遮断し、発光波長のみを通過させることができれば、視覚化できる場合があります。(Fig.12、Fig.13、Fig.14参照)

Fig.1 衣服に付着した精液の染みを可視光で撮影。

*右下のスケールは衣服の相対的な位置を示すために配置

Fig.2 450nmのLED光源で照射し、オレンジ色のゴーグルを装着し観察。撮影のため、カメラには観察で用いたゴーグルと同じ色のフィルターを装着。

Fig.3 血液の付着部を撮影。血液は光を吸収するため、暗い背景では可視化することが困難。

Fig.4 450nmのLED光源で照射し、オレンジ色のゴーグルを装着し観察。背景が蛍光色になることで、背景と血液のコントラストが高くなり、血のついた部分がより鮮明に見える。

Fig.5 衣服の尿の染みを可視光で撮影。

Fig.6 450nmのLED光源で照射し、オレンジ色のフィルターを装着し撮影。
証拠をカメラで撮影する際は、観察で用いたゴーグルと同じ色のフィルターをカメラに装着することがポイントとなる。同色のカメラフィルターが利用できない場合は、ゴーグルを通して撮影することで、有効な画像を撮影できる場合がある。(Fig.18参照)

Fig.7 可視光で撮影した衣服の唾液汚れ。

Fig.8 450nmのLED光源で照射し、オレンジ色のフィルターを通して撮影。唾液は他の体液に比べて弱い発光反応を示すことが多い。唾液汚れの境目で発光反応が強くなっていることに注目する。

ここで紹介するテクニックを用いるときに重要ことは、発光するのは証拠品だけではないということです。現場を調査していると、証拠品以外の物質の発光に遭遇することがよくあります。例えば体液と同じような発光を示す物質には、洗浄液・液体柔軟剤・漂白剤・蜂蜜などがあります。このような不明な物質からの発光を見つけた場合、犯罪現場で行うべき最善の方法は、証拠となりそうなものをすべて記録し収集することです。記録時にはこれらの物質を「不明な染みからの発光」と記述するのが良いでしょう。

Fig.9 体液を模した発光特性を持つ液体を可視光で撮影。

Fig.10 左側の布に胃腸液(Pepto-Bismol®)、右側の布に柔軟剤を塗り、450nmの光源で照射しオレンジ色のゴーグルで観察。

Fig.11 左側の布ににハチミツ、右側の布に塩素系漂白剤を塗り、450nmの光源で照射しオレンジ色のゴーグルで観察。

犯罪現場で使用するALSは、一般的に3つのタイプから選ぶことができます。価格の高い順に並べると、まずレーザー方式のALSを挙げることができます。レーザー方式は最も高価な選択肢ですが、出力が最も高く波長を限定することができます。レーザー方式は主に実験室での使用を前提に開発されているため、特に家庭用電源の利用が制限されているような犯罪現場での使用は困難な場合があります。
次に価格が高いのは、ハイパワーな白色発光の電球とガラスフィルターを使って光の波長を変えるALSです。これも非常に便利で「Projectina SL-450」のようなバッテリー駆動のものは携帯性に優れ、犯罪現場での使用にも適しています。このタイプのALSの価格は、10,000ドル強のものもあれば、その何倍もの値段のものもあります。
比較的新しい技術で価格も手ごろなのが、単一または複数の発光ダイオード(LED)を搭載しているALSです。LEDを搭載した装置は消費電力の面で優れており、犯罪現場での使用に最適です。非常に軽量で持ち運びやすく、比較的小さなバッテリーで何時間も光源として使用することができます。LED光源は、電球方式やレーザー方式と異なり、1色の光で発光します。異なる波長が必要な場合は、別のユニットが必要になる場合があります。また、ランプヘッドを交換することで、異なる色(異なる波長の光)を発することができるものもあります。このタイプのALSの例としては、OFK-8000AやUltraLite ALS Ultra Turbo Kit等があります。

Fig.12 ピンク色の布に付着した精液の染みを可視光で観察。
Fig.13 450nmの光源で照射し、オレンジ色のフィルターで観察。
Fig.14 Fig.13と同じ450nmの光源で照射し、黄色のフィルターで観察。染みと背景が同系色で発光している場合は可視化が困難となる。このような場合、オレンジ色から黄色のフィルターに変更することで、背景の干渉を抑えつつ、染みの視認性を向上させることができる。

ALSキットを販売する会社の中には、450nmのLED光源のみセットになったALSを販売しているところもあります。450nmの光源には、体液・傷跡・射撃残渣・毛髪・繊維など、多くの証拠が励起して反応します。複数の波長の光を照射できるALSキットに比べると汎用性に欠けるかもしれませんが、使いこなすことができれば非常に有用な装置です。

Fig.15 黒いフェルト生地の中央部の銃弾跡(白い矢印)を可視光で観察。黒いフェルトや衣服などの暗い背景に付着した射撃残渣(銃の発砲により発砲した人の体や衣服に重金属類が付着すること、またはその付着物)は、見づらく確認が困難である。
Fig.16 Fig.15と同じ場所を450nmのLEDの光源で照射し、オレンジ色のフィルターを通して撮影。射撃残渣は発光しているが射撃により発生する微粒子はサイズが非常に小さいため、見えにくい場合が多い。可視光では見えなかった繊維も確認できる。

Fig.17 綿タオルに付着している繊維片を可視光で観察。

Fig.18 Fig.17と同じ部分を450nmの光源で照射し、オレンジ色のゴーグル越しに撮影。オレンジ色のゴーグルを通して観察することで、繊維片をより鮮明に確認することができる。

著者紹介 PHIL SANFILIPPO

Philの警察官としてキャリアは約33年に及びます。フロリダ州マイアミのマイアミデード警察(MDPD)に30年以上勤務し、2011年末に退職しました。警察官として後半の18年間は、マイアミデード公安研修所(旧称メトロポリタン警察研修所)で法科学研修プログラムのコーディネーターを務め、犯罪現場、指紋照合、その他の法科学関連の研修コースの運営を担当しました。

研修コースの運営に加え、写真講師として同研修プログラムの写真に関連するすべての講座を担当しました。これらの講座には、世界各国の機関から生徒が参加しています。さらにPhilは法科学写真家としても、2003年のNikon Evidence Photographer of the Yearに選ばれるなど活躍、現在も法科学写真を教えており、ブロワード・カレッジ(フロリダ州立大学システム)の法科学写真科の非常勤教授を務めています。

Philはフロリダ州公認の警察講師であり、公認の鑑識写真家でもあります。2010年から2012年まで世界最大の法科学組織である「International Association for Identification(IAI)」の会長および理事長を務めました。また、2004年から2005年までは、IAIフロリダ支部の会長および理事長も務めていました。
MDPDとIAIでの活動に加え、Scientific Working Group on Imaging(SWGIT)の一員として2004年から2011年まで活動し、同グループのアウトリーチ委員長を6年間務めました。

TRITECH FORENSICSとTRITECH TRAININGについて

TRITECH FORENSICSは、世界中の科学捜査研究所と捜査官に、証拠収集と犯行現場捜査に関する製品と研修を提供する法科学市場のリーダーです。科学捜査用キットの開発・製造において、30年を超える経験を有する米国で最もこの分野に精通した会社です。
私たちは、最先端の科学捜査用製品とサービスをお客様に手頃な価格で提供することをお約束します。私たちのゴールは、研究開発プログラムを通じ犯行現場捜査と研究所の分析を、あらゆる側面から支援する優れた製品と研修プログラムを開発し続けることです。捜査から起訴において、当社の製品と研修が法科学界にとっていかに重要であるかを知っています。だからこそ当社のスローガンである「鑑識、収集、保存」は、私たちの顧客への使命を表しています。

2013年、TRITECH FORENSICSは研修部門(TFT)を立ち上げました。捜査や証拠収集のスキルを伸ばしたいという現代の法科学専門家のニーズに応えるために作られたものです。 TFTでは、犯罪現場調査から指紋採取、テロリズムの理解など幅広いコースを用意し、世界トップクラスの経験豊富な法科学の講師を揃えています。講師には、IAI、ペンシルバニア州検視官協会、国際血痕分析協会などの権威ある組織の理事を務めている者が多数おり、専門分野の書籍やマニュアルを執筆している講師もいます。
研修部門(TFT)が成長するにつれ、講師の数も提供する研修コースも増えています。研修専用のウェブサイトtritechtraining.comでは、ホワイトペーパーや研修コースとインストラクターの詳細の確認、研修コースへの登録も行うことができます。

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